必死で勉強をした甲斐があって、ワタシは県内一の進学校に入学できた。
特待生は無理だったけれど、無利子の奨学金は借りられたし。
借金は増えるけれど、自分の将来を切り拓くためだ。
親には期待できないし、後悔はしていない。
アルバイトも届出をして、勉強と同じくらい頑張った。
家には寝るために帰るだけだったし、お金はなかったけれど自由への階段を登っている気がして幸せだった。
そんな時だ。
ワタシの携帯に、見知らぬ番号から電話がかかってきたのは。
いつもなら絶対に出ないのに。
何故か胸騒ぎがして電話に出た。
父が倒れて搬送された病院からの電話だった。
しばらくまともに顔を合わせていなかった父は痩せこけて。
結局癌だった。
治療もせずに放っておいたのだから、もうあまり良い状態ではなかった。
死を間近にして、決断力のない空気みたいな父親が別人のような目をしてワタシに言った。
離婚する。
一緒にこの家を出よう、と。
自分が生きているうちに公営住宅に移り住んで、とりあえず家賃の問題を解消するのだと。
その時初めて知ったのだが、
家や車などは全て毒母の名義らしい。
あの女が駄々をこねて全部アタシのものーっと手続きさせたそうだ。
父名義の財産はほとんどないし、こんな状態だから仕事もできないけれど。
申し訳程度の預貯金と、生命保険があるらしい。
受取人はワタシだ。
毒なあいつらが金の匂いを嗅ぎつけてくるかもしれないけれど、
頭の弱いあいつらは相続みたいな難しいことには無頓着だろうから。
死んだのを悟られるのが遅ければ?
貧乏暮らしを見せつけておけば?
もしかして逃げ切れるかもしれない。
その一手に賭けた。
両親は離婚し、父とワタシはおんぼろアパートに移り住んだ。
毒母もクソ女もワタシたちに興味はなかったし、何も詮索されなかった。
お金はなかったし、ものすごく質素な生活をした。
ワタシは賄いのある飲食店のアルバイトをして食費を浮かせたし、
父は生活保護を申請して治療費を浮かせた。
あまり良い方法ではないかもしれないけれど、その分ワタシが将来働いて税金を納めるから許して欲しいと思った。
とにかく必死で毎日を過ごした。
あいつらから逃げるために、必死だった。
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