…あの子がおかしな事を言いながら出て行ったぞ、気をつけろ!
仲間からの忠告の電話を受けている最中に事件は起こった。
相変わらず破廉恥な格好をしたあの子が懲りずに会社に乗り込んで来て。
訳の分からないことを叫んで出て行ったらしい。
口の端に泡が吹いて、視点も定まらず。
言っていることも聞き取れなかったけれど。
…殺す!
の言葉が聞こえて慌てて電話して来たらしい。
不安を感じながらも、まさか僕の居場所が分かるわけないと思っていたけれど。
あの子の方が一枚上手だった。
病院からの着信で慌てて病室へ戻る。
妻が入院していたのは4人部屋だったけれど、幸い他の方々は検査の都合で部屋にはいなかった。
当たり前だけれどその部屋に居られるわけもなく。
妻は個室に移る事になった。
縫合は上手くいったけれど精神的ショックもあるだろうし。
僕は警察の事情聴取を受ける事になる。
これは逆手に取れないだろうか?
僕はあの子に、決して恋愛的な言動をしていない。
言質を取られないように、LINEの文章も気を付けていたつもりだ。
仕事以外のプライベートで出掛けたことはないし。
仲間も芋づる式に釣り上げられたくないだろうから、箝口令をしけばいい。
幸いなことに職場で暴れてくれたことだし。
警察のお世話にもなっている。
昨今はストーカー規制法も厳しくなって来たはずだし。
これ以上妻に何かされる前に手を打つべきだ。
自分で蒔いた種だ。
僕にも非がある、それは認める。
だけど僕が妻を愛していて守りたい気持ちに嘘はないし。
あの子もこのままだとまた妻に危害を加えるだろう。
僕は決心する。
あの子の人生を潰そう。
それが僕の本心で、そして贖罪の始まりだ。
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