復讐計画書 再会1

「いい加減思い出してよ、センセイ」

回診に来た主治医が私を見ながら言う。
看護師さんは処置の準備のために少しだけ席を外していて、
今この病室には主治医と私の2人きりだ。

センセイ…?
私じゃなくてこの人が主治医なのに…。
意味が理解できずボーッと主治医を見つめていると、名札が目に入った。
センセイ…、、あ!?この苗字って!?

「え…?もしかして?」

「そうそう、俺だよ、センセイ」
笑いながら主治医が言う。
思い出した。
彼は私が大学生の頃、家庭教師をしていた元生徒だ。

「えーっ、大人になったね!」
久々に笑みがこぼれる。
とても優秀な生徒だった。
私なんていなくても、大手の集団塾だけで十分な成績を出していたのに。
予習復習をサボらないように隣で見ていて欲しい、との要望で、
結局私が卒業するまでお世話になった家庭教師先だ。

「センセイなんて呼ばれるほど、お勉強を教えた記憶もないんだけど…」
なにせ医学部に現役合格するくらいの秀才だ。
給料泥棒にならないかと思い何度か退任を申し出たが、
私が隣にいると格段に勉強が捗るとのことで、彼のご両親に懇願されて続けた。

「何回も名乗ったのに全然気付いてくれなかったよね」
ちょっとスネ気味に彼が言う。
だって仕方ないじゃない。
まさかかつての教え子が自分の主治医になるなんて思いもしなかったし。
それに、私が卒業してからは全然連絡とってなかったでしょ。

「一回だけ会ったよ。俺が大学に入学した時に」
口を尖らせて彼が言う。
こういうところ、本当に変わっていない。
家庭教師を辞めるとご両親に申し出た後は必ずこういう顔をして。
センセイがいなきゃ予習復習ができない!
成績が落ちる!
医学部に入れない!
と駄々をこねた。
普段はとっても努力家で私語もせずに勉強しているのに。
ちょっと子どもっぽくて、この時も笑ってしまった。
頭がこんなに良くても、やっぱり子どもなんだなって。

「入学式の後にスタバで会ったじゃん。その時はもう、彼氏に夢中で俺と会ったことなんて忘れちゃった?」
そうだった。
入学式に誘われて、さすがにそれは遠慮をしたけれど。
一緒にスタバに行きたい、合格祝いだとせがまれて、一度だけ外で会ったのだった。
もちろん、ご両親の許可を得て。
その時には私はもう、夫に好意を寄せていて。
家庭教師を辞めた後の話を聞かれた時に、その話をした気がする。
歳上で大人で包容力があって。
私の仕事もフォローしてくれて尊敬しているって。
仕事でもプライベートでも尊敬できる相手と一緒にいるのが理想。
そんな話をした気がする。
…恋をして、舞い上がっていたんだな、あの頃は。
それにしても元教え子にそんな話をするなんて。
今思うと私も随分子どもだったわ。
恥ずかしい。

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