センセイのことはずっと好きだったけれど、それとこれとは別。
俺は忙しいながらもそれなりに恋愛も経験したし、実際モテていた方だと思う。
ありがたいことに勉強の才能はあったし、猛者揃いの医学部でもそこそこ良い成績をキープ出来た。
遊びながらでも。
映画の主人公ならハッピーエンドといきそうだけれど、
実際の現実は甘くない。
いくら勉強が出来ても、縦社会と派閥争いの日本の医学界では。
何よりも人脈がモノを言うんだ。
分かっていたことだけれど、正直イラつく。
大人になってからたまに、無性にセンセイを思い出す。
あの眼球を。
毎日外来をこなしていても、
あんな目線を持つ人間に出会う事は無かった。
もうずっと会ってもいないし連絡先だって知らないのに。
センセイに相談したいと思った。
単純に、話がしたい。
センセイは医学の事なんて知らないだろうし俺たちの派閥になんて興味は無いと思うけれど。
センセイの意見が聞きたい。
「私に分かるわけないじゃない」と苦笑しながら、
それでも一生懸命に考えて答えてくれそうな、あの視線の先に自分を写したい。
そういう思いが強くなっていた時に。
出会ったんだ。
すぐ分かった。
センセイだって。
カルテを見るより先に。
マスクで顔が隠れていても、目線は隠せない。
俺は見つけた。
あの眼球を。
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